根本的な少子化対策は安定型愛着を支援すること
2024年4月29日付け 朝日新聞天声人語は「また女性に押しつけるのか」というものだった。記事では消滅可能性自治体が744もあるというショッキングな情報が流れたことを受けてのもので「人口戦略会議」が分析の根拠としたのが20歳~39歳の若年女性の人口であったことにゲンナリしたとの書き出しで始まる。
また、5月5日付の同天声人語には、「3時間も電車に揺られてみても沿線の家には鯉のぼりの姿を見つけるのが難しかった、100年後には日本の人口は江戸時代並みの3千万人台になる、日本が明治以来求めてきた豊かさとはいったい何だったのだろう」と書かれていた。思わずため息がでた。
日本の少子高齢化のリスクについては1990年頃に「ヤバいな」と思った記憶がある。国立人口問題研究所だったかの恐ろしいグラフを見た。このまま少子化が進むと将来には大変な負担が待ってるなど警鐘が鳴らされていた。少子化対策とセットで扱われるのが、女性が働きやすくという美辞麗句に覆われた「エンゼルプラン」や「子育て安心プラン」なるもの。これは耳障りがいいだけで、実のところは、早く母親を働かせるためのプランでしかない。早く母親を働かせる=安心な子育て=少子化対策だと思っているのだとしたら、とんでもない誤りだと思う。その理由は後から述べる。
一方では、生涯未婚率は高くなる一方で、生涯無子率も同様であることは上記の新聞記事で明らかだ。どうして結婚しないのか、子どもを作らないのかという理由については様々な意見がある。この国の未来に希望が持てないとか、子育てにお金がかかりすぎるとか、だから政治が悪い、制度が悪いと言われる。それもあるだろう。しかし、僕は心理職の立場から「心理的要因」を考える必要を訴えたい。
愛着理論によれば、人と温かな関係を築き、愛し合い、自分、他者、そして世界を信頼できるのは、安定型の愛着スタイルを持つ人だ。温かな家庭を築き、同様に子どもたちに対しても自分がされたように愛情を注ぐことができる。そのい結果、愛し合うカップルが増え、出産が増えていくのだ。しかし、実際には回避型や不安型の愛着スタイルだと思われる人が増えていると実感している。それは親(養育者)との間で、安定型の愛着スタイルが築かれない人が増えているということだ。
どんなに保育所を作って待機児童を少なくしても、保育士がすべての子どもの愛着対象になることは不可能だ。産んだら早く働けという社会やそれを促すような制度では少子化を促進しているようなものだ。少なくとも1歳半、できれば3歳まで、養育者が安心して、しかも赤ちゃんが安定型の愛着スタイルを持つような子育てができることを目指した制度が必要だ。僕はそう考える。あなたはどう考えるだろうか?